本作は、第50回芥川賞を受賞した田辺聖子さんの恋愛短編集であり、表題の『ジョゼと虎と魚たち』(以降、『ジョゼ』と呼称)は、2020年の12月25日に、アニメ映画として公開された。田辺聖子さんならではの方言文学の粋をつめた本作は、恋愛小説の金字塔として現代でも読まれるべき至高の一冊だ。
本作の魅力、それは、人間のエロティシズムを見事に描いているところにある。 それが顕著なのは、以下の『ジョゼ』につづられた一文——
ジョゼは幸福を考えるとき、それは死と同義語に思える。完全無欠な幸福は、死そのものだった。
この一文に集約されているといっても過言ではない。
死に至る生への称揚、いわんや、禁止と侵犯を通過するというエロティシズムの本質を、これほどまでにシンプルに描き切っているというのは、純粋に素晴らしいという一言でしかたたえられない。
また、この一文を生かすためにその他の作品群がうまくちりばめられている。一つ一つの描写のぬめりや、方言を用いることによる身近さの演出というのも、そのエロティシズムに彩りを与えている。
『ジョゼ』に描かれたこの一文をいかにして生かすか、という熱量に、胸を強くうたれること間違いなし。恋愛小説の金字塔と言われるのも十分に納得できる作品だ。
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小説だからって目次を軽んじていると、痛い目見るぞっていうお話
個人的に読み方を失敗したなぁという蛇足...... もともと、恋愛短編集であるという前情報を知らずに読み進めていたため、各セクションごとの物語が、『ジョゼ』の世界観を構成しているのであるという勝手な思い込みで読み進めていた。 それゆえに、3作目まで読み終えたころ、 『うーん、虎も魚も全く出てくる気配がないけど、何かの隠喩なのかなぁ?』 というノイズを抱く。 しかし、読めば読むほど、一つ一つの物語のつながりを何とか補完しようにも、あまりにも論理破綻をしているというか、設定を十全に再定義しすぎているということに違和感を覚え、目次に戻ってみることに。 んで、『ジョゼ』の字面がつづられている箇所を発見。 そして、 『これってもしかしてオムニバス形式の作品なんじゃね?』 ということに半分くらい読み進めてから気づくという痛恨のミス。 小説ということもあり目次を軽んじていたことが顕著にでてしまったのは反省点。
目次はだいじ。