ボートを通じてちょっとずつ大人になっていく女子高生たちの物語。
本作は、愛媛県松山市の高校を舞台として、ボート部の活動に打ち込む5人の女子高生を描いた青春物語だ。1995年、松山市主催の第4回坊ちゃん文学賞を受賞したことを皮切りに、1998年に、実写映画化(田中麗奈デビュー作)、そして、2024年10月25日より、劇場アニメーションとして全国公開を迎えた。
さて、ここで一旦、内容についてざっくりと触れることにしよう。
ヒロインである悦子は、高校では落ちこぼれポジションだ。勉強についていくことができなければ、体力もない。真正面からものごとにぶつかることが嫌いで、どこか斜に構えている。とにもかくにもクセが強い、そんなキャラ。ただ、ひとたびやる気スイッチが入ったら、ずんずん進めるタイプである。高校入学前に見たボート部の練習模様にひかれ、女子ボート部をみずから作り上げるくらいには。
ボート部を作ったものの、県内の競技ボートは女子はナックル・フォアだけである。四人の漕ぎ手と舵をとるコックス、最低あと四人メンバーが必要だった。そこで、四人のメンバーを集めることになるのだが、いずれのメンバーも運動部未経験という始末。当然、最初の頃はボートを持ち上げることすらできず、練習は男子ボート部員の力を借りながらも四苦八苦。
しかし、そんな女子ボート部の様相は、新人戦でボロ負けしたことによってガラリと変わる。
「このままでは、やめられんねえ」
「そうよ。私らお嬢さんクルーじゃないよ」
「どこまでできるか、わからんけど、逃げずに頑張ろうや」
悦子もまた、逃げずに本気になることを決め、明日へと一歩踏み出す——
ボート競技は、オールを引いては戻し、引いては戻す、ただそれだけの単調なものだ。華やかさのかけらもなく、むしろ、ひたむきな泥臭さをともなう。水に残す軌跡は、ただただまっすぐだ。しかし、ハナから一直線ではない。初心者はどうしても、右に左へと蛇行してしまう。その様相は、まるで思春期をむかえて思い悩む少年・少女たちの心を映しているかのように。
思春期 × ボート。時間をかければかけるほど、真っ直ぐなことが大切だと気づかされる。本作はそんな一冊だ。