クローン技術が応用されてはや四半世紀。羊から始まったそれはさまざまな動植物にいたるまで成功例を積み重ねてきた。しかしながら、人間にいたってはいまだにクローン技術が適用されてない。というのも、人間の育種や、道具としての手段化といった倫理的な…
アジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門(二〇一五年)に輝き、中国SFの名を世界的なものとした劉慈欣『三体』の三部作、その第一部がハヤカワ文庫SFより二〇二四年二月に文庫化された(第二部[黒暗森林]、第三部[死神永生]に関してはそれぞれ四月…
本書では、壮大なハイファンタジー、重厚なスペースオペラ、緻密なハードSFが描かれているわけではない。ここに存在するのは、繊細で、ときには詩的なメタフィクションであり、東洋の伝統を組んだマジックリアリズムである。 紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑…
箔押しアニバーサリーカバー版の装丁に惹かれて購入。濃いめの紫を基調とした箔押しデザインが最高にクール。 宇宙戦争【新訳決定版】 (創元SF文庫) 作者:H.G. ウェルズ 東京創元社 Amazon 本書以外にも、アーサー・コナン・ドイル『緋色の研究』、H・P…
近年、民間企業による宇宙産業ビジネスの話題はつきない。 宇宙の戦士〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF) 作者:ロバート A ハインライン 早川書房 Amazon 火星移住計画や、人工衛星を活用したネットワークサービスなど、それらはかつて、ジュール・ヴェルヌの『月…
本書『人類の知らない言葉(原著: Drunk on All Your Strange New Words)』は、イギリスの作家兼小説家であるエディ・ロブソン(1978-)によって、2022年に刊行されたSFミステリー長編だ。 人類の知らない言葉 (創元SF文庫) 作者:エディ・ロブソン 東京創元社…
本書は、カート・ヴォネガット・ジュニアの戦時中の体験を元にした半自伝的な小説である。 スローターハウス5 作者:カート ヴォネガットジュニア,伊藤 典夫 早川書房 Amazon タイムトラベルによる細切れの場面展開、四次元視点による生と死の観測、異星人と…
2019年に邦訳されて好評を博した、『マーダーボット・ダイアリー』の続編は邦訳4作品目。時系列は邦訳2作目の『ネットワーク・エフェクト』の続き。 システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫) 作者:マーサ・ウェルズ 東京創元社 Amazon…
火星語がもたらす心理への道に、惹きつけられずにはいられない。 異星の客 (創元SF文庫) (創元推理文庫 618-3) 作者:ロバート A.ハインライン 東京創元社 Amazon 著者は海外SF三大巨匠がうちの一人。日本において、おそらく一番人気は『夏への扉』、知名度で…
水の精(ウンディーネ)。それは、人のかたちをしていながらも、人の魂をもたない伽藍堂。 水の精(ウンディーネ) (光文社古典新訳文庫) 作者:フケー 光文社 Amazon 物語序盤においては人の気持ちが理解できない故に、自分本位の行動をとったり、興味を引い…
ボートを通じてちょっとずつ大人になっていく女子高生たちの物語。 がんばっていきまっしょい 坊っちゃん文学賞 作者:敷村良子 マガジンハウス Amazon 本作は、愛媛県松山市の高校を舞台として、ボート部の活動に打ち込む5人の女子高生を描いた青春物語だ。1…
生成AIのもたらす未来とは—— 生成AIで世界はこう変わる (SB新書) 作者:今井 翔太 SBクリエイティブ Amazon 本書目次 第1章 「生成AI革命」という歴史の転換点―生成AIは人類の脅威か?救世主か 第2章 生成AIの背後にある技術―塗り替わるテクノロジー…
一度は蒸気甲冑に入ってみたい。 スチーム・ガール (創元SF文庫) 作者:エリザベス・ベア 東京創元社 Amazon 舞台は19世紀後半のアメリカ西海岸の港町ラピッド・シティ。蒸気機関が非常に発達しており、蒸気エンジンを搭載した切開機や調理器具、また、建設…
『カラマーゾフの兄弟』や『戦争と平和』など、ロシア文学の重厚感はすばらしいね。 大尉の娘 (光文社古典新訳文庫) 作者:プーシキン 光文社 Amazon 本書はプガチョーフの乱(1773-1775年)--農民戦争。エカチェリーナ2世の治下で農奴の奴隷化が促進された…
マッチョな本の読み方を知れる一冊。 本を読む本 (講談社学術文庫 1299) 作者:J・モーティマー・アドラー,V・チャールズ・ドーレン 講談社 Amazon 本書目次 第1部 読書の意味(読書技術と積極性;読書のレベル ほか) 第2部 分析読書(本を分類する;本を…
永劫に込められた悲しさを知ると、われわれの生きる時間がどうして短くある必要があるのかがわかる。そんな一冊だ。 何かが道をやってくる【新訳版】 (創元SF文庫) 作者:レイ・ブラッドベリ 東京創元社 Amazon 本書『何かが道をやってくる(原著: Something…
真実とは、陽炎のようなもの。 一九八四年 (ハヤカワepi文庫) 作者:ジョージ・オーウェル,高橋 和久 早川書房 Amazon 数学的に考えて、2+2=5が正しくないことは紛れもない事実だ。2+2の答えはどうあがいても4であって、それ以上でもそれ以下でもな…
終末世界に生きる人々が見た景色とは。 渚にて 人類最後の日 (創元SF文庫) 作者:ネヴィル シュート 東京創元社 Amazon 第三次世界大戦の勃発によって、放射能に覆われた北半球諸国の生物は次々と死滅した。かろうじて生き残ったアメリカ海軍の原子力潜水艦<…
現代思想を通して、太古の昔から連綿と継承されていく哲学の叡智を感じることができる良書。 現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon 現代の生活が抱える問題点として、義務教育レベルで均質化/隷属化を推し進める方向性があげられる。…
SF読むならまずはこれ。 マーダーボット・ダイアリー 上 (創元SF文庫) 作者:マーサ・ウェルズ 東京創元社 Amazon マーダーボット・ダイアリー 下 (創元SF文庫) 作者:マーサ・ウェルズ 東京創元社 Amazon 物語の入り方からしてこの本の魅力が詰まっている…
サイバーパンクは心の故郷。 カウント・ゼロ (ハヤカワ文庫SF) 作者:ウィリアム ギブスン 早川書房 Amazon サイバーパンクは国家という概念を希釈した。ハイテクノロジーを所有する多国籍企業が多層構造を織りなす世界の頂点に君臨し、そこからインターネッ…
ときは産業革命。英国の数学家チャールズ・バベッジによる差分機関(ディファレンスエンジン)の発明によって、蒸気機関が著しく発達した時代を背景としている本作。そんな本作は、80年代サイバーパンクの旗本である、ギブスン、スターリングの手によって描か…
文字の最初は絵文字。 文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点 (講談社現代新書) 作者:鈴木董 講談社 Amazon 2019年、中国の武漢市から第1例目の感染が報告されたウイルスは、数ヶ月のうちに全世界へと蔓延し、1929年の「世界恐慌」に匹敵しうる経済危機…
日本人の文化と感性がいかに感覚に頼ったものか、言葉を通してよくわかる。 言葉とは何か (ちくま学芸文庫 マ 31-1) 作者:丸山 圭三郎 筑摩書房 Amazon 音訓読み。それは、日本語を日本語たらしめている言葉だ。「母」という言葉をとっても、「お母さん」、…
地政学はパワー。 ニュースの“なぜ?”は地政学に学べ 日本人が知らない57の疑問 (SB新書) 作者:茂木 誠 SBクリエイティブ Amazon 現在の日本において、地政学という単語に耳馴染みがない人は多いだろう。 その理由としては、 戦前の日本の地政学が、大東亜共…
Pepperくんの時給は233円…… われはロボット〔決定版〕 作者:アイザック アシモフ 早川書房 Amazon SFの題材として頻繁に取り上げられ、いまや現実世界においても日に日に存在感を増しているロボット。それは内閣府が提唱するSociety 5.0で実現する社会におい…
ただ、もの静かにすごしたい。 それは本書から滲み出てくる筆者の願い。誰にも邪魔されることなく、自由に夢想する。しかし、それが叶わぬことを知っているからこそ、苦悩し、喘ぐ。 人一倍センシティブな感性をもつ著者が繰り出す言霊。それは、ありのまま…
本作は、第50回芥川賞を受賞した田辺聖子さんの恋愛短編集であり、表題の『ジョゼと虎と魚たち』(以降、『ジョゼ』と呼称)は、2020年の12月25日に、アニメ映画として公開された。田辺聖子さんならではの方言文学の粋をつめた本作は、恋愛小説の金字塔として…
行間から滲み出る細やかな息遣い、涙にすがった哀願、畳み掛ける心理描写、そして、ヒロイン:ヴァイオレット・エヴァーガーデンを通して見え隠れする著者の苦しみと称賛。それらが渾然一体となって引き起こす衝撃のあまり茫然自失。かわいいパッケージに釣…
ウィリアム・ギブスンは至高。 クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF) 作者:ウィリアム ギブスン 早川書房 Amazon 昨今では、大規模言語モデル( Large Language Model )無職という単語が生まれるほど、LLM関連の話題が尽きない。とりわけ、「マイクロソフト、オープ…