ただ、もの静かにすごしたい。
それは本書から滲み出てくる筆者の願い。誰にも邪魔されることなく、自由に夢想する。しかし、それが叶わぬことを知っているからこそ、苦悩し、喘ぐ。
人一倍センシティブな感性をもつ著者が繰り出す言霊。それは、ありのまま生きることへの難しさ痛切に感じさせる——
本書目次
はじめに わたしは存在しない
無駄を肯定するということ/脳は一貫している方がおかしい
1章 サイコマジック――2020 脳は毎夜、夢を見ながら再構成されている/愛している、が伝わらない/「毒親」とはどういう存在なのか/アカデミズムは時代遅れの男性原理の象徴
2章 脳と人間について思うこと――2010~2019 『ホンマでっか!?TV』の洗礼/攻撃されたときの身のかわし方/ブレることは脳の高次な機能/メンサのこと/結婚するメリット
3章 さなぎの日々――2000~2009 世の中を良くしよう、にある胡散臭さ/専門家のアドバイスは脳の活動を停止させる/脳が作り出す微笑みのペルソナ/日本は「科学技術後進国」
4章 終末思想の誘惑 ――1990~1999 東大女子は第三の性別?/ネガティブな思考には独特の中毒性がある/バイオアートの可能性/脳研究を志した理由
5章 砂時計――1975~1989 他社の間違い探しをする人に発疹が出る/なぜ点数を悪く取れるのだろう/通知表に「利己的」と書かれて
本書は、来るべき変化へ対応するために必要なペルソナの伝播録として、十二番に効力を発揮するだろう。
「らしさ」からの脱却、変容と妬み、脱ポジティブ、これらの現世を生き抜く上で重要な要素が、主観的な視点で記されている。
主観的な視点で綴られるからこそ、高解像度の内部感覚がリアルに同期していくような錯覚を覚える。内容が内容なだけに精神汚染もすさまじく、吐き気を催すほどだ。けれども、それを乗り越えてみると、闇に潜るのも案外悪くないな、という印象を受けることができるだろう。
蓋をして目も背けたくなるような深淵を惜しげもなく晒せる覚悟に、脱帽。